『みんなに好かれようとして、みんなに嫌われる。』という、
仲畑貴志の本を、何年もの間、何度も読んでいる。 


仲畑貴志が、精神的に参ってしまったときのエピソードがいちばん好きで、
そこだけを繰り返し読んでいる。
読み返すたびに驚くが、たった2ページの文章だ。 
「これだけの内容が2ページ」ということに、毎回ぞっとする。

仲畑貴志がなんの精神病を患っていたかはわからない。

「約3年間、希望の無い日々がつづいた。その間、死にたくてしょうがなかった。ロケ先のホテルでも、低い階の部屋を選び、窓が開かないことを確認し、冷たい汗を流す生活。でも、不思議なことに、仕事は猛烈に出来た。しかし、パーになった影響はコピーに出た」

 

そのときに仲畑貴志が書いたコピーが5本、そこに載っている。
どれもふと街で目にしたら泣いてしまうようなコピーだ。
そのあとに、こんな文章がつづく。

「こころの病理に触れるコピーは、恐るべき深度を持って刺さっていく。想像を絶する効果だった。しかし、その社会に届くことばは、その社会が待っていたことばだ。病理に触れるコピーが効果を生む社会は、時代は、やっぱり、少しパーではないか」

本当にすごい。

つらいときには文章なんかいくらでも書ける。
「刺さる」フレーズも書きやすい。自分が求めている言葉だからだ。

それを書けたとして、書けた先に「こんなのは間違ってる」と「こんなのはおかしい」と、言えるだろうかと思う。