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打ち合わせに指定された店に行くのに、
百貨店の中を通った。

品良く冷房の効いた店内をまっすぐ歩いていると、
視界の隅に、なにか見覚えのある色が見えた。

昔、好きだった男のひとが、一度だけプレゼントをくれたときの、
その箱の色だった。

足は止めず、まっすぐ前を向きなおし、
つま先に神経を集中して、歩く。
その店の方向は決して見ない。

帰りに別のフロアに入ると、
昔、自分が使っていた香水の香りがした。
あまりどこにでもは売っていない、
男でも女でも使える香りの。

その品物がどこにあるかは見ない。
探さない。
確かめない。

足は止めず、振り向かない。 
わたしはけっして振り向かない。
いつどんなときでも、絶対に。 

外に出ると、すべてを真っ白にするような、
強い夏の陽射しが待っていた。