木嶋佳苗が夢に出てきて、
「わたしのように生きなさい」

と、ご神託のようなことを述べた。

「わたしのように、欲望のままに買い、欲望のままに男と寝なさい」
と、つづけて言った。

「本当に欲しいもの、どんなに努力しても、手に入らないものはある。
あなたにもあったでしょう?
何を犠牲にしてもいい、すべてを失ってもいい、というほど強く願っても手に入らなかったものが。
だったら、手に入れられるものを手に入れて、なにが悪いの?」

目覚めて、すこし泣いてしまった。

わたしは、この事件について、木嶋佳苗本人について興味を持っているわけではない。
東電OL事件のときと同じだ。
事件そのものではなく、事件をきっかけに浮かんでくる恋愛やセックスや男女の違いのようなものに、心を引き込まれているのだと、自分でもわかっていた。
わたしの夢に出てきた木嶋佳苗は、本物の木嶋佳苗とは、あたりまえだけど違う。

起きてから、わたしはいったい、どれほど自分の欲望を抑圧しているんだろう、と考えた。
買いたいものを買わない、寝たい男と寝ない。
その理由はなんなのだろう。
どうしてその気持ちを抑圧するのだろう。

それは、なにかを奪われていく感じがするからだと思う。
欲しいものを買っても、自分の生活に見合わない高い金額を奪われたような気持ちになることがあるし、
男と寝て、そのことで自信を失ったり、心が傷ついたりすることもある。
仕事をしてやっと得たお金が、一瞬でなくなってしまったり、
心を受け入れてもらえなかったり、
からだがごっそり、半分ぐらい、なにかと引き換えにもっていかれたような気持ちになることがある。

欲しいものと引き換えになにも奪われず、ただなにかを「得て」いくだけの人のことが、わたしはうらやましいのだと思う。