地下鉄のホームで、綺麗な後ろ姿を見た。
一糸乱れずアップに結い上げた髪、白いうなじ、白い耳たぶにカーネリアンレッドの天然石のピアス。
白い肌に赤い石が映えて、アクセサリーはそれだけなのに華やかで印象深い。

少し肌寒いから、紺の薄手のジャケット。柔らかい素材で、堅苦しい感じがしない。
その下には、たぶんピアスと同色のワンピース。
身体にフィットしすぎないタイトスカートで、上品な膝丈。
黒いシンプルなヒールの靴。

完璧に品が良く、ひけらかすようなセンスではない美しさに、ついあとを追ってしまった。
そのひとは、決して、美人といわれるような顔立ちではなかったけれど、
もう、どう考えても、美人だった。
きっとこれからディナーの約束があるのだろう。
お店の雰囲気に彼女は完璧にとけ込み、とけ込みながらも際立ち、
彼女を待つ誰かは、彼女の姿を見て、心から喜ぶだろう。
そんな場面がありありと想像できた。

わたしは天然石が好きで、何度かそういうアクセサリーを手に入れたことがある。
でも、単に石の好みで選んでしまって、顔に映えなかったり、
合わせるアクセサリーや服が見つからなかったりして、うまく活かせたことはほとんどない。
なんだって、考えなしに選んで、うまくいくはずがないのだ。
自分の顔には、肌の色には、どんな色の石が映えるのか。
わたしはそんなことすら知らない。

 上品に、正しく華やかさを演出するということは、シンプルでもっとも強い美しさの表現かもしれないと、ときどき思う。
こういう人に出会う機会はめったにないし、こういうきちんとした装いをする機会がわたしの生活にはあまりないのだけれど、
その大事な基本をわたしも覚えてみたい。